しのぶ
第2章 2・手紙
「それは、その……」
志信は言い淀むと、元康をじっと見つめる。先程とは違いまばたき一つせず見られると、今度は元康が恥ずかしくなって顔を赤くした。
「……本当にあなたは、あの方によく似ている」
「あの方?」
望郷の念がこもった言葉に、元康は首を傾げる。志信が今見つめているのは、元康ではない。元康の知らない過去を、元康と重ねて見ていた。
「それは……誰なのかと、俺が訊ねてもいいのか?」
忍びにとって、歩んできた人生はほぼ全て秘匿の時間だ。そこへ踏み込んでいいのか分からず、元康は愚直に訊ねてしまう。
「初めてあなたの名前を聞いた時、私は運命を感じたんです。あの方も、あなたと同じ元康でしたから」
志信は元康に背を向け、先を歩きながらぽつぽつと話し出す。元康は隣に立つ事も、前に出る事も出来ず、歩調に合わせて揺れる髪を見つめながら後を追った。
「私にとって、あの方は命の恩人であり、父のような存在でした。過酷な忍びの修練も、あの方のお役に立てるなら苦ではありませんでした。あの方の手足になる事が、私の幸せでした」