しのぶ
第2章 2・手紙
「その元康は、今は?」
志信の話は、全て過去形の言葉で締めくくられている。薄々感づいてはいたが、元康は聞かずにいられなかった。
「私より一足先に、手の届かない場所へ向かわれてしまいました。私もすぐ、後を追いたかったのですけれどね」
「だ、駄目だ、そんな事! お前は、俺の忍びなのだぞ!」
「分かっています。この地に役目がある限り、それを放棄して後を追ったりはしませんよ」
ふいに志信は足を止め、元康に目を向ける。
「私の志も信も、元康様に全て捧げましょう」
心に響く、真っ直ぐな声。しかしその瞳は、忙しくまばたきしていた。
(ああ、嘘を吐く時も、志信はまばたきが増えるんだな)
志信本人は、おそらく自身の癖に気付いていない。もしかすると、その言葉が嘘である事すら気付いていないかもしれない。声は間違いなく真であるのに、瞳はそれをよしとしていなかった。
うつむいて答えない元康を不審に思ったのか、志信は元康の前に寄ってくると顔を覗き込む。
「元康様?」
「ん……いや、志信は本当に掴めないと思ってな。それで、その元康と俺と、どこが似ていると?」