しのぶ
第2章 2・手紙
「何を仰いますか。そもそも主君を差し置いて寝ていた私の失態です」
「いや、そうじゃない! ほら、これ……読もうとしたのは、俺だ……」
志信が元康を敵と勘違いしたのは、勝手に文を読んでいたからに違いない。忍びにとって、情報を盗まれるのは最大の失態。本能で防衛に回るのは、むしろ当然なのだ。元康は文を差し出すが、志信は首を振った。
「私は人に見られて困る物を、人前で書くような馬鹿ではありません。中身が気になるのでしたら、私が直に朗読しても構いません。言い訳にはなりませんよ」
志信はそう言いながら文を受け取ると、くないを首元に突きつける。
「この失態、我が命で償いましょう」
「ま、待て志信! お前ここで死んで、俺を一人にするつもりか! 大坂への旅は!? 護衛は!!」
慌てて志信からくないを取り上げると、元康は大きな溜め息を漏らす。
「まったく、さっきお前に襲われた時より肝が冷えたぞ」
「しかし、自害を止められては責任の取りようがありません。止めるのであれば、元康様が私を手打ちにしてください」