しのぶ
第2章 2・手紙
「しの、お前は俺が欲しいか?」
解した後孔に指を差し入れ、元康は訊ねる。志信の中は犯す異物を締め付け引き込もうとするが、本人は首を横に振っていた。
「……それは、違う元康や、康子がいるからか?」
「康子……?」
元康が手を止めた事で少し余裕が出来たのか、快楽に支配された志信の瞳に疑問の色が浮かぶ。だが、元康の真意を察するだけの思考は戻っていなかった。
「文に書いていただろう。彦右衛門がどうとか、康子がなんだとか。郷に残してきた妻ではないのか」
「ああ……その康子ですか。あれは、姉夫婦に宛てた文です。康子は、私の家族ですよ」
「姉、夫婦? 妻や子どもはいないのか?」
「私には妻もおりませんし、子もありません。私の種は必ず遺恨を生みます、子を残す事は許されないのです。なれば、妻も必要ありませんので」
「種が遺恨などと、またお前はそのように自分を貶める事を……しかしそうか、康子は妻ではなかったのか」
それを聞いた途端に、元康の中に渦巻いていた黒い感情は一気に晴れる。相変わらずの自虐は引っかかるが、独り身という事実の喜びには適わなかった。