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しのぶ

第3章 3・嘘つきの顔

 
「んーっとね、えっとね……父上の、部下だった人!」

「その通り、簡単な問題でしたね。さ、あまりはしゃぐと淀様が心配なさるでしょう。お戻りになられて、その麗しいお顔を見せてあげてください」

 餅を渡し、志信は秀頼の背を軽く押して促す。秀頼はさっそく餅を一口頬張ると、志信に手を振って戻っていった。

 目を丸くして二人のやりとりを見ていたもう一人の青年は、秀頼の背中を見ると再び追いかけようと足を踏み出す。が、志信に腕を掴まれ、止められてしまった。

「お待ちください」

「な、何? 僕はかまぼこを取り返さなきゃいけないんだけど」

「事情は知りませんが、主君を人前で追い回すなど恥知らずではありませんか? 確かに秀頼様はまだ幼いでしょう。しかしだからと侮った態度を取れば、他の人間も同じく主君を軽んじるでしょう――」

 志信が説教を始めると、志信の着物を掴んだ元康が青い顔で首を振る。

「志信、待て! 駄目だ!」

「どうなさったんです、そのように慌てた顔をして。無礼を働く者を放置しては、後々困るのは秀頼様、そして今ここに構える輝元様ですよ」
 

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