しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
だが元康は首を振り続け、泣きそうな顔で訴える。
「だから、駄目だと! 輝様、このお方が、その輝様なんだ!」
「……はい?」
志信は改めて、青年の顔をよく眺める。高い位置で一つに纏めた髪は、絹のように艶やか。頼りなさげな印象を受ける垂れ目も、爛々としている。皺一つない肌も、背丈は少々小柄だが、彼の全てが志信と同年代だと示していた。
「ご冗談を、輝元様は確か齢五十も近いはずでしょう。彼が輝元様であれば、化け物ですよ」
すると青年は、掴まれていた腕を振り切り、志信に人差し指を突きつける。
「化け物だとしたら、どうする?」
「は、はい?」
青年は意地悪く笑み、突きつけた指をくるくると回す。
「土下座する? 切腹する? それとも……」
「輝様!!」
元康は二人の間に割り込むと、志信の頭を押さえて共に平伏した。
「申し訳ありませんっ!! しかしこの者は、やれと言われれば冗談ではなく腹を切ります! ですから、どうかご容赦を!」
ただならぬ元康の焦りように、ようやく志信も確信する。外見は齢三十にも満たないように見える青年が、五十も近い毛利家の当主、毛利輝元なのだと。