しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
かつては太閤秀吉が座ったであろう、一段高い畳に座る者はない。輝元はその下、元康や志信と同じ畳の上に座り、扇を機嫌良く扇ぎながら笑っていた。
「若く見えるのは一族皆の特徴なんだ。隆景叔父様も父上も、もちろん元就じいさまも、皆姿は若かったんだよ」
志信は元康から離れた下座で、ひたすら平伏している。知らなかったとはいえ、無礼を働いたのは事実。許されるのならば、今にも切腹を申し出たいくらいの後悔を抱えていた。
「だからね、さねのぶー、だっけ? キミもあんまり気にしなくていいよ。輝が素敵すぎる故の間違いだし」
「そのような訳には……申し訳ありません」
「まったく、頑固だなぁ。なんか徳川か黒田の武士みたい」
輝元がそう呟いて口を尖らすと、志信は顔をようやく上げる。
「私は、武士ではありません」
「でもあんまり忍びっぽくないっていうかさ……忍びって、もっと無感情で意見もなくて、主人の言う事だけ聞けばいいって感じでしょ?」
「しかし、なぜ徳川か黒田などと……どちらも輝元様の敵ではありませんか」