しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
「敵か……まあ、今は、ね。けれど輝、別に徳川は嫌いじゃないよ。黒田はすぐ輝と隆景叔父様を比較して、バカにするから嫌いだけど」
西軍の総大将が話した言葉とは思えず、志信は驚きで目を丸くする。それは元康も同じだったようで、戸惑いながら問いただした。
「嫌いではないって……じゃあ輝様はどうして、皆へ相談もせずに西軍についたんですか? せめて吉川様に相談すれば、状況も違っていたでしょうに」
「だって、三成一人じゃ可哀想でしょ? 僕がついてあげなきゃ、きっと誰もついてきてくれなかっただろうし」
これからの時代が決まる戦になるのは明白にも関わらず、輝元の口調は軽い。とても、総大将の言葉とは思えない軽さだった。
「それとさ、元康」
「は、はい」
「なんで元康、ここに来たの?」
「……はい? いえ、輝様が呼びつけたんでしょう? 他人に漏らさないよう、極秘で来いって」
輝元は首を傾げたまま、しばらく元康と見つめ合い黙る。そして手を打つと、舌を出して肩をすくめた。
「いけない、文の受取人、間違っちゃったみたい」