しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
「……承知いたしました。それでは夜に、お伺いいたしましょう」
「志信!」
「大丈夫です、元康様。輝元様は、名のある武将のお顔をされています。元康様の不都合になる事はなされませんよ」
志信にそう諭されはするが、元康の不安は止まらない。だが、本人同士で約束してしまった以上、もはや元康に口を挟む道理はない。胸に靄を抱えながらも、引き下がるしかなかった。
夜は、甘いひと時も、血なまぐさいひと時も覆い隠す。忍びが動き出すその時間、輝元の部屋には小さな明かりが一つだけ灯されていた。
「……やっぱり、キミは出来た忍びだね。自分の立場を、よく分かっている」
夜更けだというのに、輝元は正装で腰に刀を差している。そしてその傍らには、見慣れない金色の髪を持つ、青い瞳の少年。着物も、輝元と同じく帯刀しているところを見ると武士なのだろうが、明らかに異国人だった。
そして志信自身は、黒装束に顔を覆い尽くす頭巾。呑気に話をするような風体ではなかった。
「その少年は……?」
「あぁ、ジュストの事? 見ての通り南蛮人なんだけどね、色々あって、ウチで小姓として雇ってるんだ」