しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
志信は地図を眺めたまま、先程までの饒舌は嘘のように黙っている。輝元は沈黙の中しばし志信を見つめ、再び口を開いた。
「――志信には、伏見城の小早川勢に潜伏してもらって、探りを入れてきてほしい。真に元康の忠臣なら、情報を持って帰って来られるでしょう?」
「私が間者なら、ちょうどいい逃げ時になりますが、よろしいのですか?」
「これ以上懐に潜られるよりはマシだよ。どうせ尻尾も出さなきゃ手落ちもないでしょ。戦が終わったら、ゆっくり処刑するから大丈夫」
「それは恐ろしい。それでは、情報を手に入れ次第すぐに戻りましょう」
「忘れないでよ、元康はここ、大坂城にいる。戻るという事は、西軍の懐に帰るという事……輝の手元に置いている以上、元康相手に後ろ暗い沙汰は起こさせないからね」
志信は深く頷くと、部屋を出て行く。輝元はその真っ黒な背中を見送ると、溜め息をついて後ろに倒れ込んだ。
「さて、志信は帰ってくるかな。ジュスト、賭けてみる? 帰ってくる方に賭けて勝ったら、なんでもあげるよ」
「帰る訳がありません。絶対、アイツは間者です。輝サマに対して不遜な態度、斬り殺すべきです」