しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
一方、輝元との話を終えた志信は、真っ直ぐ元康の元へと向かっていた。
「ただいま戻りました、元康様――」
「何をしてきたんだ、志信! 大事ないか!?」
志信が戻るなり、元康は志信に抱きつき頭巾を取り払う。あまりの取り乱し振りに、志信は言葉を失ってしまった。
「大丈夫、みたいだな。ああ、よかった」
「……そこまで疑うのは、輝元様に失礼では?」
「だって、輝様貞操だけは信用出来ないから。俺相手じゃないが、前科もあるし……いやもちろん、輝様を尊敬している事に、違いはないが」
忠節と私心に揺れながらも、元康は志信を離さないよう腕に力を込める。志信はしばらく元康の成すままにして、包む温もりに瞳を閉じた。
「それで、何を話してきたんだ?」
「任務を一つ、承りました。伏見城の小早川勢に潜入し、探りを入れろと」
「それで?」
「……それだけです」
後が続かない志信に、元康は眉をひそめる。それだけであれば、わざわざ夜に一人で向かわせなくとも、元康と共に話しても問題はないはずだ。むしろ志信は元康の忍びなのだから、元康に話を通すのが筋である。