しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
「……え?」
「俺が欲しいのはお前の体じゃない、心だ。心のない人形を犯しても、それは自慰と何一つ変わらん。いつものお前なら、それくらい分かると思うんだがな」
元康は決まりの悪そうな志信を真っ直ぐ見つめ、拳を握り真摯に語る。
「……それだけは、差し上げられません。差し上げたくとも、不可能です。忍びとは心を捨てて成るもの、私の心臓に、感情は宿っていません」
「そんな事はない。現に俺は、志信以上に心のある忍びを見た事はないぞ」
「あると思われるなら、それは私がそう見せかけているだけです。そうやって相手から信頼を得て……最後には目的のため裏切るんですから」
「目的を果たすという事は、つまり忠義を胸に秘めている訳だろう? あまり自分を卑下するな。志信は優秀な忍びだが、それだけではない。武士にも負けず劣らずの、忠節の心ある武人だ」
志信が取られた頭巾をかぶり直し俯くと、表情は全く分からなくなってしまう。しかし志信が漏らす声は微かに震えていて、まるで泣いているかのようだった。
「……元康様」