しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
腕を引き寄せられ、唇が重なるのは一瞬の事だった。元康は身を引こうとするが、志信が押さえつければ、それも無駄に終わる。荒々しく口内を犯され、元康はそのまま志信に押し倒され床に転がった。
「しの、駄目だと――」
「人の心を奪っておいてお預けとは、あなたは鬼ですか。私だって……あなたが欲しいんです」
上に乗る志信は、元康の胸を軽く叩き元康を黙らせる。そして着物に手を伸ばしながら、ぽつりと呟いた。
「心は……取り戻せないのです」
「え?」
「体は、奪われても減りません。しかし心は、奪われてしまえば終わりです。己の制御を離れ、相手の意のまま勝手に動いてしまいます。だから忍びは、心を捨てるのです」
袴や下帯を取り払えば、元康自身が剛直を表す。志信は頭巾の口元をずらすと、起立するそれの筋を舌でなぞった。
「あなたに心をあげてしまえば、私は忍びではいられなくなります。だからあなたを拒んだんです。だからあなたが怖いんです。あなたを汚すなど、そんなものはその場を誤魔化す言い訳です。体を繋げれば、心も繋がる……それがただ、怖かった」