しのぶ
第4章 4・暗躍
「君は……?」
秀秋が志信に、そして志信の吐瀉物にも気付くと、哀れんだ瞳を向ける。そして志信の隣に腰を下ろし、肩に手を置いた。
「戦は初めてか? 人を殺すんだ、神経がすり減るのも無理はない。どこの家の者かは知らないが、あまり気を病んではならない」
味方である保証などないにも関わらず、秀秋は警戒を見せず柔らかな言葉を掛ける。志信が答えられずに目を丸くしていると、秀秋はさらに続けた。
「僕はこの小さな森が、癒しの場なんだ。戦になれば、心に鬼が生まれ、あらゆる命が許せなくなる。僕が人に戻るためには、様々な生命が溢れる森が必要なんだ」
「人に、戻る……」
「出来るなら、僕はこの小さな川になりたいと思う。大きすぎる流れは、大地を変える力を持つ……それは、僕には過ぎた力だ。小川のように、少しの命を廻していく力……それが、きっと一番幸せなんだ」
詩的な言葉を紡ぎながら川を見つめる秀秋の背中は小さい。だが、人から聞く「臆病者、卑怯者」との評価とも、また違っていた。
「秀秋様は、毎日ここに来られるのですか?」