しのぶ
第4章 4・暗躍
「日の本の流れを根底から変えようとする、とくに、深い川です」
「っ、それって……」
秀秋は初めてうろたえた様子を見せると、背筋を正し頼りない印象の顔をきりりと整える。
「君――あなたは、何をしにここへ?」
「……秀秋様、あなたは助六という横暴で粗雑な家臣の扱いに困っていたでしょう? その助六と、大坂へ加勢を出そうとしている小川家、二つを同時に潰す策を与えましょう」
志信は辺りの気配に気を配りながら、秀秋へ提案を持ちかける。その声は小川の流れる音にかき消される程小さかったが、秀秋の心には大きく残った。
目の前の小川は、絶えず流れる。秀秋は気付いていないが、川の流れは案外早い。この早い川は、人の目の届かないところで地面を削り、尖る石を磨耗させ、大地の有り様を確実に変えていた。
戦は既に各地で始まっている。大坂には石田三成が人質として集めた武将の妻や子、縁者も数多く滞在していた。だがそれだけ賑わっている大坂なのに、元康の心にはぽっかりと穴が開いていた。
手勢が到着するまでは特に大きな仕事もなく、元康は用意された部屋でただ書に目を通す。だが本当に目を通すだけで、中身は頭に入っていなかった。