しのぶ
第4章 4・暗躍
(志信……)
頭の中を占めるのはいつも、遠く離れた想い人ばかり。甘く幸せな夜の後、愛を確かめ浮かれる間もなく二人は別れたのだ。元康は出来る事ならすぐに預けられた志信の心を返して、本心をもう一度志信の口から聞きたかった。日の光の下で志信を見ていないせいか、あの一夜が本当に現実なのか実感があまり沸いていなかったのだ。
悶々と時を過ごす元康の耳に、襖の向こうから響く若い声が入る。元康は終わりのない思考から引き戻されると、入るように指示をした。
「失礼します」
やってきたのは、輝元に仕える風変わりな小姓、ジュスト。彼は礼儀正しく一礼し、部屋へと入ってきた。
「どうしたんだ?」
「輝サマが、心配してました。元康元気ない、励ましてやりたいと。だからジュストはここに来ました」
「励ましに? 気持ちは有り難いが、大丈夫だ。誰にどうこう出来るものではないから」
「……でも、それでは輝サマも元気が出ません。困ります」
ジュストは眉を下げながら、元康の表情を窺う。その気弱な顔はまるで自分を映しているようで、元康は苦笑いを零した。