しのぶ
第4章 4・暗躍
元康の領地である荒谷にて、大規模な一揆の恐れを知らせた文。志信は今すぐ大坂を出て、城へ戻れと指示している。既に元康の手勢は大坂へ向けて出発した後。志信に言われなくとも、このまま放置する訳にはいかないのは明らかだった。
「――すまない、俺は帰らなければ!」
元康は焦りのまま飛び出そうとするが、ジュストは腕を掴み首を振る。
「帰るって、どうして! 訳が分からない、とにかく、輝サマに報告を!」
輝元の名前を聞いて、元康は自分が今当主の懐の中にいた事を思い出す。説明も挨拶もなく出ていっては、無礼どころの話ではない。一度深呼吸すると、早まる鼓動を抑えて頷いた。
「……そうだな。すぐにでも謁見を」
ジュストは力強く頷くと、ひとまず元康を残し輝元の元へ駆けていく。ジュストが便宜を図ってくれたおかげで、輝元への謁見はそれからすぐ叶った。
「――という、警告が私の部屋に矢文として送られました。今一揆が起これば、荒谷はただでは済みません。今すぐ戻り、一揆を鎮圧したいと思います」
輝元は相変わらず上座に座らず、元康と同じ畳の上で向かい合っていた。