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最後の恋は甘めの味で

第6章 高級ホテル

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どこに?


だとか


降ろして


だとか問いてみたり言ってみたりしたが、上條くんは全てを無視し、車を走らせた。


そして、着いた場所は......





口があんぐりと開くほどの都内では有名な高級ホテル。


普通の顔をして中に入っていった後輩を見て、思わず自分の給料を思い浮かべてしまった。


だって、どう考えても無理なのだ。


あの会社では結構いい位置に立っている私でもここで泊まるのは愚か、ここでランチを取ることさえできない。


それなのに私よりランクはだいぶ下の筈の上條くんが、平然と入っていくのは都市伝説並み.......


いや、そんなもの遥かに超えるくらいに恐ろしいことなのだ。


呆然と立ち尽くす私の前に上條くんが今一度、姿を現した。


「部屋、取ったんで行きましょう.......ってなに口パクパクしてんすか。魚の真似ですか?」


そりゃあ口くらいパクパクもするだろう。


今目の前で繰り広げられてる光景は、私が経験してきたどんなことよりも恐ろしい事なのだから。


身動き一つ取れず、ただあぐあぐと口を動かす私を見て、上條くんはぼそりと呟く。


「.........動かないなら部屋までお姫様だっこしますけど」


それが魔法の言葉のように私の体は動き出す。


その後ろで上條くんが


「.......そんなに嫌かよ」


と不機嫌そうに呟いたのは聞かぬふりをして。

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