メビウス~無限∞回路
第2章 救いのない空を
「……分かっているよ」
バツが悪そうに呟くと尊は両手を合わせて意気を込める。気の流れが掌に集まり、熱が生まれると肉眼にも見えるほどの白銀の焔が尊を中心に渦巻き、天上高くなるほど細く鋭い切っ先として天を刺す。神楽はその様子をただ眺めると、二歩退き少女を守る盾として静かに立つ。
白銀の焔はゆらゆらと周囲に広がり、空気の色さえ変化させて見える。集中しているのか、閉ざした瞼はぴくりとも動かず『静』であった。
「ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬそをたはくめかうおゑにさりへてのますあせえほれけ…」
澱みなくひふみ祓詞を呟く。
大気が唸りだすと無造作に生えている雑草も揺らぎ、風が大地を撫で空へ戻っていく。神楽は瞳を開けたまま、尊の気に意識を合わせ増幅するのが主な役目である。
意識が重なるのではないかという同調の瞬間は、慣れるまでは臓腑に触れる異物でしかなかったが、幾度か重ねていく間に性行為に擬似した快楽を得るまでになり、紅潮してくる肌が淡く染まった。
自身の気を最高と言えるかどうか分からないが、十分に高めると唇の端を吊り上げて笑った。
「みつけた…」
黄泉から伸びる蔓に、全身を絡められ、身動きも出来ないまま薄目をぼんやりと開いて姿。
幼い身体は蒼白に魂(たま)の色までを失っていた。
「悪夢を貪られてたか………」
堕ちることも昇ることも出来ない自殺者の身体を餌に成長する地獄にある植物。
飴を舌先で転がすように、自殺者の魂を啜る寄生種だ。
「先にこいつを放さないとな」
「面倒なんて思わないでして下さい」
「まだ何も言ってないっ!!」
うきっと後ろを振り返って睨む尊に、神楽は相変わらず涼しい笑顔を向けて続けた。
バツが悪そうに呟くと尊は両手を合わせて意気を込める。気の流れが掌に集まり、熱が生まれると肉眼にも見えるほどの白銀の焔が尊を中心に渦巻き、天上高くなるほど細く鋭い切っ先として天を刺す。神楽はその様子をただ眺めると、二歩退き少女を守る盾として静かに立つ。
白銀の焔はゆらゆらと周囲に広がり、空気の色さえ変化させて見える。集中しているのか、閉ざした瞼はぴくりとも動かず『静』であった。
「ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬそをたはくめかうおゑにさりへてのますあせえほれけ…」
澱みなくひふみ祓詞を呟く。
大気が唸りだすと無造作に生えている雑草も揺らぎ、風が大地を撫で空へ戻っていく。神楽は瞳を開けたまま、尊の気に意識を合わせ増幅するのが主な役目である。
意識が重なるのではないかという同調の瞬間は、慣れるまでは臓腑に触れる異物でしかなかったが、幾度か重ねていく間に性行為に擬似した快楽を得るまでになり、紅潮してくる肌が淡く染まった。
自身の気を最高と言えるかどうか分からないが、十分に高めると唇の端を吊り上げて笑った。
「みつけた…」
黄泉から伸びる蔓に、全身を絡められ、身動きも出来ないまま薄目をぼんやりと開いて姿。
幼い身体は蒼白に魂(たま)の色までを失っていた。
「悪夢を貪られてたか………」
堕ちることも昇ることも出来ない自殺者の身体を餌に成長する地獄にある植物。
飴を舌先で転がすように、自殺者の魂を啜る寄生種だ。
「先にこいつを放さないとな」
「面倒なんて思わないでして下さい」
「まだ何も言ってないっ!!」
うきっと後ろを振り返って睨む尊に、神楽は相変わらず涼しい笑顔を向けて続けた。