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メビウス~無限∞回路

第9章 鳴き声(後編)


「散れっ!」

右手を一閃すると最後の榊が、茶色に変色しその場に落ちる。苛々とした口調と、怒りを内包した言葉に流石に神楽も驚く。しかし支えられている以上は、顔を向けることしかできない。怒りを目に宿した靭い眼差しは、本来の姿である素戔嗚の印象を強くする。神楽は言葉を発することをせずに家がある方向を指差した。
このまま大学へと足を向けることは出来ない。身体も精神も。…そして最後に現れた男は一体何者で、どんな目的があるのか。そして最近こういう事件が頻発している裏で、男が躍動しているのだろうかと思う。ーー



「今度会ったら落とし前つけさせてやる…」
「はいはい、私は出来たら会いたくないですけどね」
「…………」

後味の悪い終わりを迎えてしまったと思うと、自然とさらに足取りは重くなる。神楽も尊も必要以上に言葉を発することなく家にたどり着くと父には「気分が悪くなったから」と一部の本当を告げる。そのまま自室に向かいベッドに身体を横たえた。
眠りに誘われる。胸元にひょこっと頭を見せる尊を両手で抱きしめる。小さな身体は暖かい。食い荒らされた神気の補充をしたい。生存本能で動く身体は、尊の額に頬に唇を落としていく。尊の身体そのものが神気を湛えている。まるで泉のようで、無意識に唇を寄せてはそれを呼吸で吸い上げていく。

「好きなだけ奪え」

片手を広げて、成人男性にしては華奢な腰に両手を回す。自らも神気の譲渡をするように、尊からも唇を寄せては輝きが鈍い部分にキスを繰り返す。落ち着くまでの間それをひたすらにしていく。神気が途絶えると、神子は生きていけないからだ。どういうシステムなのかわかっていない。ただ人間の姿をしているだけで、その御霊はもしかしたら神と同じモノであるのかも知れない。前の神子がどういう相手であるか尊にも素戔嗚のにも分からない。知っているとしたら、姉であり神楽に降りることが出来る天照だけだ。

「……落ち着いたか…?」

答えは返ってこない。とりあえず最低限を採取した神楽は、すよすよと寝息に包まれている。それをしばらく眺めていた記憶はあったのだが、途中で途切れるとそのまま尊自身も睡魔に身体をゆっくりと落としていった。














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