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メビウス~無限∞回路

第2章 救いのない空を

 ねぇ、知っているかい?

 此処には昔、酷い領主が重税に苦しむ民から絞れるからと湯水みたいに税を重ねていた。
 子供を両手で締めて殺した母親は、涙を流しながら憎しみを高らかに謡い。年老いた母を養うことが出来ないと男は一歩一歩を大地に沈むみたいに背に負い少しでも、ほんの少しでも食べ物を確保する為に。
 子供も労働に殺された親の前で、何も出来ず泣き叫んで親を求め。生きていく為に家族を、自身を犠牲にしていたんだ。
 村に飢饉が起きた年も変わらず税を求める領主に、とうとう村人はこのままでは【殺される】と自ら持つ農具を武器に、領主を追い詰め、憎しみと悲しみで鋭くなった刃を一人、また一人と領主の肉を裂き、骨を砕き、顔面に浴びる血潮に興奮と麻痺の中で小さな子供たちまで追い詰めていった。

 苦しみを知らないのは、罪だと。
 この行為は正統な、報復なのだと。

 刃の向こうで空を飛ぶことを選んだ子供。
 小さな身体を曲げて涙と恐怖に見開いた瞳。人は―――たたりを恐れた。





「んでこれが塚か………」

 頭をかきながら隣を見ると神楽が苦笑しつつ、汚れて廃れた感があった塚の苔を落としていた。

「これでは魂は安らぐのは無理でしょうね…よく、本当にたたりなどをおこさなかったものです」

 丁寧な言葉には哀切があり、くたびれた塚の周囲に無造作に生える雑草を抜いていた。

「………間抜けだからやめれば?」
「尊こそ、もう少し優しくすることを学べばどうですか?」

 しれっとした言葉を吐くと、手を合わせて呟いた。

「もう死んでいるんだってこと、教えてあげないと彼は家族と会うことも出来ず、ここで永遠にひとりぼっちなんですよ」

 祈るみたいに両手を組んだ愛らしい少女が、今にも大粒の涙を零さんと尊と神楽を見つめていた。

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