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硝子の挿話

第7章 徒花

 門が近づくまでの小道には、赤が鮮やかな南国の花が咲いている。勝気な赤と緑の葉は陽光を存分に浴びて明るく道を彩っていた。
「…変わらず花が好きか?」
 キョロキョロと瞳を動かし、周囲を巡る視線に気づいて問う。
「愛おしいです」
 鮮やかな色彩の花。
 新緑を天へ伸ばす樹木。
 果ては交わる蒼い空。海。
 命を感じるみずみずしい光景のすべて。
 生命を照らす毅さを宿す太陽。
 闇を癒す月。
 その加護を受けし、幾多の命。

「全てを愛しています」

 湿気を含んだ温い風が流れていく。わざと解れさせている髪が、風と同じ方向へ靡いた。
「今日も、いい天気です」
 水耀宮は冬がないこともあり、全体的に薄生地を使用している。ただティアは長袖を好むので暑さが篭らないように、細心に注意され、袖口がひらひらと開いてる。腕を上げると割合肌の露出が多い。
 ティアはサイティアにだけは、本当のことを話しているし、送りと迎えは一挙にサイティアが、現在請け負っている。
 あれから一度も、二人の逢瀬がない。
 口にしたことはないが、やはり寂しいのだろう。空を見る瞳も、海を眺める瞳もどこかそぞろだった。
 ティアは彼の日常が何処にあるか知らなかった。

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