硝子の挿話
第7章 徒花
下げた両肩に手を乗せて、ティアの頭上に聞いた。
「祈りの間に入って、瞑想しようかと思ったのです」
見る者が思わず感嘆の息を吐くような、柔らかくしなやかな微笑。感情の全てを瞳一つで騙すぐらい優等生的な―――その微笑み。
‐本当は泣くつもりだろ?‐
言葉を飲み込むサイティアは、この気の使い所を誤るばかりの少女を見る。人間は知らず知らずに、心に無理を重ねて堤を壊していく。平静を装うだけで、感情を殺しつづけていくような人生なら、衝動に撒かれる時には粉砕されてしまいそうで。サイティアは危惧していた。
若干甘えるのが下手な、ティアの負を相殺したいと願い、一つだけ案を投げ掛ける。
「急がないなら、俺と海辺を散歩でもするか?」
サイティアは『完璧』を装うティアの微笑に、騙されたフリをした。
欺瞞だとしても、多くある負が支配する場所から、少しでも守りたいと願う。実は先ほどの光景を見かけて、追ってきたとは言えない。
精一杯に頑張る姿を、壊さない為に。
ティアを守ることが、サイティアにとって一番の重大事項なのだから。
「どうだ?」
覗いて笑いかけると、ティアは大きな瞳を細め、嬉しそうに輝かせた。
「行きますっ!…嬉しい…」
大きなフリルを幾重にも重ねられた上等の袖を口元に当て、上気する頬も薄紅に染まる。
「行こう」
差し出した手を、当たり前に繋いでふたり並んで歩いた。
光景を見ているだけだと、二人の姿は仲のいい恋人同士。
ティアの細く白い手を、鍛えられた手でとって歩く姿は、この場所に二人引き取られてから変わらない。サイティアは時間の逆行を感じて、瞬間の幸福を手元に実感した。
†
「祈りの間に入って、瞑想しようかと思ったのです」
見る者が思わず感嘆の息を吐くような、柔らかくしなやかな微笑。感情の全てを瞳一つで騙すぐらい優等生的な―――その微笑み。
‐本当は泣くつもりだろ?‐
言葉を飲み込むサイティアは、この気の使い所を誤るばかりの少女を見る。人間は知らず知らずに、心に無理を重ねて堤を壊していく。平静を装うだけで、感情を殺しつづけていくような人生なら、衝動に撒かれる時には粉砕されてしまいそうで。サイティアは危惧していた。
若干甘えるのが下手な、ティアの負を相殺したいと願い、一つだけ案を投げ掛ける。
「急がないなら、俺と海辺を散歩でもするか?」
サイティアは『完璧』を装うティアの微笑に、騙されたフリをした。
欺瞞だとしても、多くある負が支配する場所から、少しでも守りたいと願う。実は先ほどの光景を見かけて、追ってきたとは言えない。
精一杯に頑張る姿を、壊さない為に。
ティアを守ることが、サイティアにとって一番の重大事項なのだから。
「どうだ?」
覗いて笑いかけると、ティアは大きな瞳を細め、嬉しそうに輝かせた。
「行きますっ!…嬉しい…」
大きなフリルを幾重にも重ねられた上等の袖を口元に当て、上気する頬も薄紅に染まる。
「行こう」
差し出した手を、当たり前に繋いでふたり並んで歩いた。
光景を見ているだけだと、二人の姿は仲のいい恋人同士。
ティアの細く白い手を、鍛えられた手でとって歩く姿は、この場所に二人引き取られてから変わらない。サイティアは時間の逆行を感じて、瞬間の幸福を手元に実感した。
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