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硝子の挿話

第7章 徒花

 ティアが手の届く場所なら、守れはしていると思うのだが、手が届かない場所は神官が管理をしているので、並べられる数値でしか見えてない。
「このままでは…サミア様の計画は纏まらないですものね、私がもっとしっかりしなければ…」
 矛盾を繰り返す感情は、浄化の術があるのかも解らない。けれど太陽宮一番の姫巫女が、ティアに持ちかけた計画。現在完全に別離してしまった三宮を、今一度過去のようにひとつに統合すること。
「難しいだろうが、ティアはティアらしくだ…」
「…はい、ユウリヤにもそう言われました」
 一掃しなければならない事項は、とても沢山あって大変だけれど。これだけは必ず形にしたい。
 親を恋しがって泣く子供も、子供の凍った亡骸にしがみ付く親もティアは見たくない。
「せめて私に出来ることはしたい…」
 髪飾りに触れる。それはティアが神子として壇上に立つために、証としてあつらえられた紫水晶。
「………一人一人が出来ることはとても小さい」
 海が眼前に広がり、潮の香りが鼻孔をくすぐる。ティアの顔から憂いが消えた訳ではないが、それでも心は海に注がれているようだ。
 潮風が心地いい。
「………」
 いつもより砂浜が多い場所。
 砂の道を歩き、海岸線で足を止める。一度伏せた瞳で海を見た。
 それだけで、少女という姿は消える。伸ばした背筋や、空とする腕。陽光を浴びて凛とした姿は姫神子の威厳と神域を持っていた。
「小さな幸せを寄せ集めて幸福となるように、最善を尽くさばなりませんね」
 そう微笑む姿は神に愛された荘厳な気配を滲ませ、サイティアは自分が選ぶ道を決めた。

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