テキストサイズ

硝子の挿話

第7章 徒花

 ティアの家族でいると、その姿を見ることに『幸福』を感じる。
 愛しいと思い眺めるが、気配だけは常に周囲に向けられ、片時も睨みだけは欠かさない。守りたいのは、世界でただ一つ。その宝玉を、生涯通して守れるなら、それは至上の幸せだ。
 例え今は欺瞞であったとしても貫き通せば、『真実』となる。心地よい風に、心さえ流されているティアが、ふいに振り返えった。

「星祭が終われば、自由は取り戻せますよね」

 上気した顔が、穏やかに緩んでいる。苦笑で感情を流してから、一歩前に出てティアの頭を撫でた。
「そうだな」
 隣りに並ぶと、ティアの嬉しそうな顔を見て微笑した。
 孤独になるのは、どれだけ近い距離にいても、交わることの無い気持ち。今はその切ない痛みを感じていたい。ただ優しく触れながら、触れている箇所から、想いが漏れないように気を使いながら。

「私ひとり残されなくてよかった…」

 この広い世界で孤児になった時、ティアも瀕死ではあったが生き残った。
 夢現にサイティアの声に現世へと引っ張られたから。サイティアを見てティアは笑う。慈しむべき少女の未来を思い描いた。




 ゆるやかな時間が愛しく流れている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ