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硝子の挿話

第7章 徒花

 爆音が硝煙を上げ、砂を舞い上げて散る。思った以上の威力に、ティアの表情は凍った。
「凄いな…」
「ティア、凍っている場合じゃないぞ」
 真ん中にティアを挟み、サイティアとユウリヤは男たちに立ち塞がる。全員顔を大きな布で隠していたが、王権側であろうとそうじゃなかろうとすることはひとつだ。
 武人ではないだろうが、鍛えこまれた男たちは合計5名。まだ後ろにも隠れているかも知れない。そう考えると、此処で戦うのは不利だ。
 男たちは三人の逃げ道を封じるように、ひとりまたひとりと飛び降りてくる。完全に退路を立たれてしまう前に、動かなければならない。サイティアは腰にぶら下げていた筒を手にすると、歯で紐を引き抜き空へと投げた。
 赤く染まった煙が、音もなく空へと広がる。緊急時召集の合図であり、援軍要請の狼煙。
「仲間が集まる前に目標を狙え」
 中央に立つ男が、冷静な指示を出す。ならば頭は恐らくこいつだとサイティアが目星で先ほどと同じものを投げつける。
「ティアを連れて行け」
「あんただけ残す訳にはいかないだろう」
 ユウリヤも、腰にぶら下げている剣を抜き取り、ティアを抱き寄せた。
「…サイ兄さまでしたら大丈夫です」




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