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硝子の挿話

第8章 理由

「仕留めるか…すれば良かったな」
 背を伸ばし、大きく深呼吸するサイティアに、ティアは首をゆるく振った。
「人が人を殺すのは反対です」
 満面に浮かべた笑みで却下する。どういう理由があろうと、偽善だと罵られたとしても、これだけは生涯しないと胸に誓った。
 両親の死を目の当たりにした時の記憶は、既に曖昧に濁っていたとしても、身体は忘れてなどくれない。それに命を奪う権限などティアは望むところではないと思っている。

「それこそ………神殿に理由を与えそうで、恐いですしね…」

 均衡が崩れるのを待っているのは、何も王家だけではない。
 全てを掌中に納めたいと思うのは、神殿側とて同じだ。言い分の違いはあっても、根元は同じ支配欲であるなら、どちらにも理由を与えたくない。水面下で何処の攻撃とも分からない全てを凌いでいる。




「何故神殿側が…?」
「理由は―――…」


 言葉にしようとして留める。触れていいのか迷う表情に、ユウリヤもなんとなく察する。暗にブブルやジー達のことが過ぎったからだ。酷いやり方で全てを、足元に平伏せる権力の圧力。
「私の命が『火種』になることを避けたいです…」
 王家だけではなく、理由をこじつける為に水耀宮からも、暗殺指令は出されていることを、ティアは肌に感じている。
 サイティアが護衛の道を選んだきっかけは、ティア自身が誼を通じている月男神子の護衛である少年が語った内容に賛同したからかもしれない。

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