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硝子の挿話

第8章 理由

『自分以上に信用できる他人は居ない。だからこそ選んだ道だ』

 自分よりも大切だと思う相手に、生き抜いて欲しいという願い。
 ティアの命が消えれば、かならず戦争は大なり小なり。一度戦争が起きてしまえば、一番の被害を被るのは間違いなく。一日の命を必死に繋いでいる数多くの民だということもティアは熟知していた。
 太陽宮の巫女ほど統治能力はなくても、ティアなりに考えて出来ることは、水耀宮神殿の人間が生活に困らないだけの利益を、その領土にいる民たちから年貢としてもらい、代わりに雨水を呼び込み、豊作を願うこと。
 民が栄えなければ、国は滅びる。
 年貢を上げるのはとても簡単な解決方法だと、多くの仲間は言うが、それは果たして本当に栄えるという意味に繋がるのか。―――田畑を耕す者は、幾らでも生まれる。それを理由に税を重くし、人民を苦しめた血税で、何がどう潤うのかティアには分からない。
 月空宮では、当たり前に取り立てている年貢の半分ぐらいしか、水耀宮では受けていない。
 それが、亀裂として存在しているのだ。
「私は民が笑うことの方が、とても大きな財産だと考えてます。…それを苦しませる真似は出来ません」

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