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硝子の挿話

第8章 理由

 送ろうと向きをかえると、向こうから駆け寄ってくる影があった。
 同じ騎士団の格好をしている中で、ティアを探すと言えば一人しか思い当たらない。
「タルマーノ!」
 呼びかけて手を振ると、三人に気がついて歩みを落ち着けた。
「大丈夫ですか?」
 ティアが一瞬だけ目を丸くして出迎える。いつも冷静で落ち着いているタルマーノが息を切らしている姿は、幼い頃ぐらいしか見ていない。驚いた様子のティアに苦笑して言葉をゆっくりと返した。
「…農村の人間が、教えてくれて…」
 狼煙を見て出たのはいいのが、既に敵の姿もなければ、ティア達の姿もない。サイティアが誘導したのかと、残りを下がらせて探していたところを、果実園に入るのを見ていた者が、親切に教えてくれたのだ。ようやく息が落ち着いてきた。
 ふっと上げた視線に、一人見知らぬ姿に眉間を顰めた。

「…誰だ!?」

 瞳を上げた先に、ティアと肩を並べて立つ見知らぬ男がひとり。タルマーノがキツイ瞳で詰問をすると、ユウリヤの顔もこわばる。ティアは剣呑になる二人の間に慌てて入った。
「タルマーノ、駄目です!…」
 きつく諌めるつもりで発した訳ではないが、動きをはっきりとユウリヤを庇っていた。
 毅い瞳がしっかりとタルマーノを射抜いている。厳しい表情で立ち塞がっていたかと思うと、小さな笑みを浮かべてティアが二人を見た。

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