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硝子の挿話

第8章 理由

 たった二人の味方であるタルマーノにまで嫌われたら、苦しさを理解してくれる相手を失うのはこんなにも怖い。
 止めようとしても、止まらない涙。感情の河が堰をきってしまっていて、止めようがなかった。
「ごめん…」
 不器用な手が、ティアの頭を撫でる。その無骨な彼の優しさは、―――昔から変わらない。切なくなるほどに優しくあった。
「…ひっ…、ぇ…」
 嗚咽を漏らしながら、自分の感情をはきだしていく。その優しさに甘えて、子供の頃みたいにティアは泣き続けた。

 少しだけ、強くなりたい。









 ティアは強く願ってしまう。大好きな人達の為に、少しだけでいい。勇気を持てるようになりたい。
 それは小さな願いである同時に、祈るほどに純真な気持ちの最果ての希望。
 なってしまったことを嘆かずに、前向きに、逃げずに、現状と向かいあい。そして自分が信じる道を歩く。多くの人たちの生活の奥に見える幸福が、自分の考えに左右されるなら、よりいい道を導ける人間になりたい。

 真摯に願う。

 間違っていないと、信じられるだけの自信が欲しい。自分の両手にある多大の命たちを、少しでも守りたい。
「私は負ける訳にはいきません…けれど、私には側で支えてくれるサイ兄さまやタルマーノが必要なのです………」
 たとえどれだけの他人に煙たがられようとも、太陽宮・月空宮の神子らと画策している事柄がある。
「うん」
「三宮の統一化という改革は、とても難しいのが実情………ましてや…」
 それ以上は言葉にしない。何処に耳があるか分からない以上、案として纏め上げている最中のこと以外は迂闊に口に出来ない。
 三宮の統一。民が選んだ統治者へ国として譲るという前代未聞な改革。表に出ている部分は最初の事項だけだ。宮が分かれているから戦争が勃発する。
 戦いは悲しみや、痛みしか残さない。後には大量の死体と憎しみが蔓延し、報復という手段はより一層の苦しみと、悲しみを広げるだけで、何度も繰り返しを重ねていく。
 三宮が統合するのも、王権と渡りあうのも難しい。最終手段へ到達するまでに、どれだけ膨大な時間が流れるかは分からないが、挫ける訳にはいかない。
「怯えた不安だらけの平和じゃ、ダメなんだろう?」

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