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硝子の挿話

第8章 理由

「―――ダメ、です…」
 去年、前司祭から一切の権限をこの腕に授かったのは、きっと何かの意味があるから。そしてその意味は、時代を問わなければならないのだ、とティアは感じていた。








 星祭まで、後二週間―――。



「タルマーノは側で、私を本当に支えてくれますか…?」
 怯えるみたいに見上げて問いかける。神殿にいると荒む神経で、それでも頑張っている幼馴染の姿に、タルマーノは引きつった表情を見せないように優しく抱きしめた。
「俺がついている。サイティア殿もいる………大丈夫だ」
 きっと守ってみせる。果実が豊富に実り、海には沢山の資源があって、本来であれば飢餓を知らない土地である筈の水耀宮。湯水のように取り上げられる税で生活出来ない民を、前司祭は心を痛めていた。
 しかし見えなかった部分の言い訳は、取り繕うと思うほど滑稽さを出してティアに押し付けて逃げた。
 すまないと、痩せた手は震えていたことをティアは覚えている。水耀宮は司祭よりも、代々からの神官が権力を握っている土地柄であったから、司祭の言葉は無視で流されていたと聞いた。
 現在ティアも似た位置にいるのだが、彼女の強みは『水姫神子』であること。だからそれを武器に、ティアは浮き沈みを繰り返す勇気で風に向かうのだ。
 信じる未来の為に、ただの傀儡で終わらせたくない願いを胸に留めて。

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