硝子の挿話
第8章 理由
一方―――‥。
果実園に残った二人は、無言で向かいあっていた。
複雑な心境で互いの顔を見る二人。けれどティアの事を知りたいユウリヤと、知るべきことがあると判断したサイティアは、この偶然を感謝した。
「ティアのこと好きなのか?」
単刀直入で切り込み、沈黙を破ったのはサイティアの方だった。
先程までの、ティアに見せていた温和な空気など皆無に近い。全身に宿る冷気を瞳に乗せてユウリヤを見ていた。
これほど見せていた面をひっくり返すサイティアに、予感はあって首筋に冷たい切っ先を感じた。
「好きだと答えたら、殺す気ですか?」
放電しそうな緊迫感に、周囲の風さえ騒ぐように吹き抜けていく。雨が秘かに降りだすみたいな寂しい空模様だ。見上げる二人の瞳は揺れる。互いに視線を投げるが、全てを悟るに相応しい瞬間でもあった。
理解した瞳は剣呑な空気を溶かせ、先ほどとも違う落ち着いた瞳でユウリヤを見やった。
「……そうか。奇跡の正体を知っているか…」