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硝子の挿話

第8章 理由

 中途半端であるならば、この先とても辛い結末が、二人を引き裂くことになり、ティアが胸に大きな傷を負ってしまう。
 それだけは見過ごすことが出来ない。

「両親が殺される現場にいて、一部始終を見てしまった」

「な…っ」
 狭い部屋の中に満ちる鉄錆びの臭い。笑う声―――光に反射する剣の切っ先。
 いつもの日常が狂った瞬間、ティアは血溜まりに顔色を白くさせ、全身を強く戦慄かせ蹲って男たちを見ていた。
「血の臭いが充満していた」
「本当に…?」
「珍しくはないだろ?出る杭は打たれる世の中だ」
 朱に満たされた室内で、ティアを背に庇い、なんとか外へ出そうとした。





 水耀宮護衛騎士達の到着が後数瞬でも遅ければ、二人とも両親達の元へ旅立っていただろう。サイティアは本当の両親を流行り病で失い、母の妹一家に引き取られ家族として育てられた。
 最初からこの家で生まれたのではないかと思うほど、とても慈しんでくれた家族を、目の前でサイティアは奪われた。

「それが心を壊した原因?」

 幼いまだ能力の使い方を知らないティアの命を奪うために放たれた刺客だった。
 そうではなくても幼い少女が見るには余りにも残酷だった場面の数。サイティアはその記憶がティアにないと知って、実はホッとしてしている部分も多々ある。
「ああ。今生きているティアは女としての機能はない」
「機能?」
 機械か何かのいい回しみたいだとユウリヤが思う。
「ティアの下腹部には今でも無惨な傷跡があるよ…」
 止めを打つ為に剣が刺された場所は、ティアの命を奪うことはなかったが、女としての機能を抉り、臓器をズタズタにした。
 命が助かったのは、もはや奇跡としか言えない傷であった。

「子供の時、俺は体が弱かったが、あいつは今と違い、本当に目の離せないぐらい元気のいいお転婆だった」

 慈しむ姿を求めて、懐かしんだ瞳が空を見上げる。
「ティアが好きか?」
「ああ、ずっとずっと好きなままだ」
 そう言って笑う表情は、少しの悲しみと溢れる愛情が滲んでいる。
「俺は、あいつの笑顔を守りたいだけだ」
 ただ聞くだけのユウリヤに、意志の毅さを晒す。言葉を吐き出せる雰囲気ではなく。またこういう沈黙も必要だ。

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