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硝子の挿話

第8章 理由

「なるほどな…」

 ただ聞いた事に反応は返す。
 ユウリヤは、ティア自身も過去の重責に苦しんでいる。そんな気はしていた。
「ティアの未開ともいえる能力は、他人であればあるほど、欲すると同じように畏怖し、違いを排除しようとするだろ?」
 全ての人間が、とは言わないが、未知なモノに対して、ヒトは本能で異物を嗅ぎ分けいる。
 水耀宮はティアに対して、一つの選択肢を選んだ。
 農作物を中心とする産業が、この水耀宮では中心だ。もし、ティアを他が手に入れれば、雨水を代償に服従を強いられる可能性がある。
「可能性を避ける為に?…」
「ティアという入れ物には用がないが、持つ機能には興味がある………ということだろうな」
 思惑は複雑に絡んでいるのだと知らなかった。
 毎日毎日飽きもせずに、側で座り込んで音をせがむ。不幸などひとつ知らない無垢な笑みで、ユウリヤの歪を癒してくれた。





 初めこそ、その全てに苛立つことを感じていた。
 しかし重ねていく日々の中で、無邪気とも言える笑みや交わした会話は、いつしかとても大切になっていくのを、ユウリヤは愛しさで思う。
 裏の苦悩を感じたのは、ユウリヤが一番苦しんでいた話を聞いてくれた時だ。
 ティアにも何かあるのかも知れないとぼんやりと思いはじめていたが―――今日の出来事といい。

「ティアは苦しいんだな…」

 ただの女でありたいと思うのは、甘え方を見てて感じる。世界が目指す夢が、そのままでいることを赦さない。
「ティアなりに怖いんだろ」
「怖い?」
「あいつな、小さな頃よくいつもいるイルカいるだろ?」
「ああ…キュルって名前の?」
 二人で会っていると、時々顔を出してはティアは表情を輝かせて駆け寄っていく。
 最初その光景を見た時は、驚いて声も出ないほどに立ち尽くした。

「あいつな、イルカの言葉が分かるんだ…いや、イルカだけじゃない」

「なんとなく…分かる」
 滅多に人前には現れない警戒心の強い野鳥が、ティアの側に降りてきた。
 全身を包む鳥の羽。まるで描かれた絵のように見えた一瞬をユウリヤは知っている。鳥達と遊んで謡う姿は、息を呑むほどに存在を遠くに感じもした。

「一度、俺もイルカの…キュルの背中に乗ったことがある」

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