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硝子の挿話

第9章 滄海

「二人が働いてくれるから、ティアはご飯が食べれるんだもの」
 上納する年貢が高くなれば、自分たちが食べる分さえも収めなければならない。騎士団はただでさえ、収入は上のクラスでなければ入らない。二人が働いて家族四人がなんとか食べれる水準なのだという事実。

「平気だよ、サイ兄さまはティアから離れないでね」

 裾をきゅっと持ち、見上げる眼差しにサイティアは頷いた。
 運命は忍び足で近づいていく。運命の輪は残酷にティアとサイティアから味方を奪っていくことになるなんて、その時には考えていなかった。
「今日は瓜を食べたいな」
「じゃ、買いに行こうか?」
「うん!」
 手を繋いで二人で、少し外れた調子で謡うティアに、苦笑なのか微笑なのか、曖昧な境界線を引いた笑みを浮かべて歩く。
 水耀宮の中ではやはり、海原が大きく取り上げれた唄が多く存在し、途切れながら夕陽が沈む海岸線を進んでいった。
 家族が揃う最期の晩餐の為に―――。









 もっと早く彼らが到着していれば、この惨劇はなかったかも知れない。
 大きな綱を断ち切る斧が、振り下ろされる。夜更けに響いた大きな物音。サイティアは一気に身体を起すと、一目散にティアの室へ駆け込む。周囲に明かりは必要ない。サイティアの目は闇の中でも視界は鮮やかに見える闇目を持つからだ。

「ティア…」

 小声で呼びかけると、まだ寝台の上で寝息を立てている。一度寝付いてしまえば、そうそうに目を開けることがない。
「こういう時ぐらい起きてよ…」
 そう思うのだが、昼寝はしておらず。外で存分に遊んだことが加算されているのだと分かり、とりあえず横抱きに抱えた。
「泥棒かも知れない…」
 この辺りは騎士団に、籍を置く家族が多く、暮らす集落のひとつだ。その為人数は常に変動し、夜遅くであったり朝早くにならないと帰って来ない家族も多く存在する。
 昨今の税の値上げが原因で、夜盗などに身を落とした者が横行を始めていることも不安のひとつ。若い女や幼い娘などは、金品にもなる為、一人で出歩いて運悪くなんてこともなくはない。

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