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硝子の挿話

第9章 滄海

「ありがとう…」
 意識のないぽつりと呟かれた言葉。母親は微笑を浮かべて、サイティアの身体を抱きしめた。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
 そっと離れると、同じように父親から抱擁される。言葉を重ねられるのが恥ずかしいというのか。照れくさいというのか謎だったが、素直な一言で言うなら嬉しい―――というべきかもしれない。

「おやすみなさいっ…」

 言えない言葉が飲み込まれた分、挨拶に力が入っていた。
 二人が振り返って衝立を直して出て行くまでを見送り、籐の箱に眠っているティアを抱っこして寝台に転がす。
「ちょっと前まで重いって思っていたけど、これって年の差かな?それとも俺が成長しているから?」
 慌てていたのと、恐怖心から先ほど抱きかかえた時には感じなかったことに触れた気がした。
 それは安堵が生み出す安らぎという間で覚えた愛しさ。サイティアは小さく笑って隣に寝転ぶ。





 起きたら驚くだろう。吃驚して泣いてしまうかも知れない。そんなことを考えている間に、昼間の疲れも手伝って、サイティアは無意識の内に眠りへと誘われていた。



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