硝子の挿話
第9章 滄海
「………ないよりましか…」
外に薪を作る用にある鉈が立て掛けている。それを手に取ると室内にゆっくりと入っていく。組み木で作られた素朴な室内を歩く。二階は殆ど物置としてる為に生活空間は一階のみ。
恐怖にともすれば遊ばれる気概を、サイティアは深呼吸で抑えた。
部屋に入って直ぐにある台所でも、煙が燻り火の跡が残っている。ひっくり返したように惨状だった。
そうなると苛立ちや恐怖よりも、愛着が勝っていたのだろう。一気に奥へ駆け寄ろうとした所で誰かの影を見つけた。
「……う…っ」
声がそれ以上出ない。サイティアは口元を押さえて蹲る。全身の血が凍るのではないかと思った。
凍てついた体で這うみたいに近づくと、既に父親は事切れていた。
「ティア…」
避けて奥へ行くと、柱や壁が切りつけられ、刺し貫かれていた。
「ティア…っ」
彷徨うみたいに感覚のない足が、可能性に賭けて咽び泣く心を引きちぎりながら求めて歩く。
「ティア…!」
二階へ上がる丸太の階段にも血の痕が赤い筋を垂らしている。一気に駆け上がろうとした所で男たちの笑い声が聞こえた。
「もう、後はないぜ…一気に楽にしてやるよ」
「そんなに怯えなくても、一瞬だ」
下卑る笑い声が聞こえる。少し開いた隙間から息さえ殺して覗き込む。
「ティアっ!!」
頭の中に血が逆流している。思考能力は途切れ、斜めに切られた衝立を蹴り破り室内に入った。
「…お義母さんっ!」
まるでティアの盾みたいに事切れている姿。怒りと悲しみと恐怖が戦慄する肢体の動きを一瞬で殺(け)した。
「まだ、生きているヤツが居たのか…」
「構うな、俺らの仕事はコレを始末することだ」
細い鋭利な剣を舐め、下卑た笑いを浮かべる醜悪な形相。そんな男に薄笑みを浮かべ、寧ろ殺気なら下卑た男よりも強い。
眼からも快楽を伺える。勿論サイティアにそれを認識出来るだけの余裕もないから直感だが。
「じゃ、俺が相手してやろうか?餓鬼?」
一歩、一歩じりじりと近づく影に、サイティアは鉈を構える。間合いさえしっかりすれば、俊足には自信がある。子供だ、となめて掛かられている。―――時間を、稼がなければならない。
「ティアに手出しはさせない!」
外に薪を作る用にある鉈が立て掛けている。それを手に取ると室内にゆっくりと入っていく。組み木で作られた素朴な室内を歩く。二階は殆ど物置としてる為に生活空間は一階のみ。
恐怖にともすれば遊ばれる気概を、サイティアは深呼吸で抑えた。
部屋に入って直ぐにある台所でも、煙が燻り火の跡が残っている。ひっくり返したように惨状だった。
そうなると苛立ちや恐怖よりも、愛着が勝っていたのだろう。一気に奥へ駆け寄ろうとした所で誰かの影を見つけた。
「……う…っ」
声がそれ以上出ない。サイティアは口元を押さえて蹲る。全身の血が凍るのではないかと思った。
凍てついた体で這うみたいに近づくと、既に父親は事切れていた。
「ティア…」
避けて奥へ行くと、柱や壁が切りつけられ、刺し貫かれていた。
「ティア…っ」
彷徨うみたいに感覚のない足が、可能性に賭けて咽び泣く心を引きちぎりながら求めて歩く。
「ティア…!」
二階へ上がる丸太の階段にも血の痕が赤い筋を垂らしている。一気に駆け上がろうとした所で男たちの笑い声が聞こえた。
「もう、後はないぜ…一気に楽にしてやるよ」
「そんなに怯えなくても、一瞬だ」
下卑る笑い声が聞こえる。少し開いた隙間から息さえ殺して覗き込む。
「ティアっ!!」
頭の中に血が逆流している。思考能力は途切れ、斜めに切られた衝立を蹴り破り室内に入った。
「…お義母さんっ!」
まるでティアの盾みたいに事切れている姿。怒りと悲しみと恐怖が戦慄する肢体の動きを一瞬で殺(け)した。
「まだ、生きているヤツが居たのか…」
「構うな、俺らの仕事はコレを始末することだ」
細い鋭利な剣を舐め、下卑た笑いを浮かべる醜悪な形相。そんな男に薄笑みを浮かべ、寧ろ殺気なら下卑た男よりも強い。
眼からも快楽を伺える。勿論サイティアにそれを認識出来るだけの余裕もないから直感だが。
「じゃ、俺が相手してやろうか?餓鬼?」
一歩、一歩じりじりと近づく影に、サイティアは鉈を構える。間合いさえしっかりすれば、俊足には自信がある。子供だ、となめて掛かられている。―――時間を、稼がなければならない。
「ティアに手出しはさせない!」