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硝子の挿話

第10章 交錯

「だろうと…思った」
 触れるな、と鋭すぎた瞳が語っていた。
 強く押し殺した心は、サイティアと似た状態であるのかも知れない。
「タルマーノが気持ちを抑えたのは、きっと俺のせいだろう…それを俺は止めなかった」
 あの日の情景を瞼に浮かべたサイティアは、遠くまだ遠くを眺めてぽつりと言った。
 あの惨劇の顛末を一緒に見てしまい、タルマーノも一人ほうりだされたティアを守るために、自分を殺すことを選んだ。
 結果、ティアとの距離は幼馴染よりも遠くなってしまったが、守りたいという気概が導いた。
「己の欲望を包み隠さないと、俺は歩けない。前を見れない………」
 薄く笑みを履いた唇は、悪意が覗いているように見えた。
「俺はタルマーノにだけは、奪われたくなかったんだ…」
 昔から無邪気さで、素直な笑顔でティアの手を取って目の前を走っていた。

「だから誰だって一緒だ」

 ふっと笑みを浮かべるが、その荒さみは闇に生きる獣。背筋にわずかばかりの寒気を感じ、ユウリヤは自分の肩を抱いた。
「………」
 面と向かって感じた『恐怖』を伝える訳にはいかない。ユウリヤの怯みを見てとったサイティアは苦笑した。
「ごめんごめん、怖がらせたい訳ではないんだ………ただ洩らすつもりはなかったのに、しつこいからついね」
 薄く浮かべられた笑みを、ティアは見たことがあるのだろうか。とかどうでもいいことを考えてしまう。

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