テキストサイズ

硝子の挿話

第10章 交錯

 ティアを前にするのと別人過ぎる姿。恐らくはこちらが本性だと推察すると苦笑が滲んだ。
「怖い訳じゃないけど…」
 手を差し出す。無造作に出された右手を眺めるサイティアを促した。
「泣かすな、それだけを守ってくれ」
「出来る範囲でしか約束出来ない…」
 握り合う手のひらから伝わる温もり。屈辱感さえ笑い流せる強さ。彼の選んだ道は、ユウリヤには理解出来ない。しかし向けられる期待は、そのまま自分が叶えたいと思っていることだという事実。

「ティアにも言わない」
「当然だ…」

 兄のように。家族として守る気概だけで側にいるのは、きっとユウリヤには分からないほど歯痒く辛いに違いない。それでもティアの身内を消したくないだけで、それを全うしようとする姿勢は愚かでも尊い。
 互いの視線は何も語ることがない。けれど握り合う手には、強い何かを語り合っている。ユウリヤはこの不器用な包容力を持つ男が嫌いじゃないと改めて思った。

「俺はティアが好きだよ…」
「ああ。…あの子は繊細すぎて、たまに常人が理解出来ない部分で傷つくことがあるから…」

 苦笑して語るが、それに対して思い当たる部分を思い出し苦笑を広げてしまった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ