硝子の挿話
第10章 交錯
神子という仕事は、繊細さと強い自己犠牲が必要なのかも知れないと感じた。
「ティアは1を10にも100にも受け止める…根が真面目で冗談が通じないことも多い」
「最初は少し面倒だと思ったこともある………かな」
生きているのが辛いと、一度だけ洩らしたことがある。吐き棄てられた台詞に、ティアは強い反応を示した。
「目の前で震えるから、どうしたのかって思ったら………空から大粒の雨が落ちてきて、イルカの大群に囲まれて驚いた」
あれは出会って一週間足らずの時だったと、ユウリヤが呟くのを黙って聞くサイティアは空を見上げた。
同じように空を眺める。いつの間にか雫を落とそうとしていた空は晴れ初め、雲が流れていくのが見えた。
「感情が揺れると天気を揺るがせる………それであいつは神殿に入ってからは、感情を極力殺すようになってしまった」
とても真っ直ぐで、無邪気だった少女が最初に覚えたのは『感情の殺し方』。泣くことを赦されず、笑うことを赦されず、神官達の眼差しの檻で過ごした日々。それは無邪気さを奪い表情を奪い。引き取ったのが前司祭でなければ、きっと今のティアすら、この世に存命はしていなかったのではないかと思う。
あの牢獄のよう場所で唯一、ティアを守っていた前司祭。彼の前だけは、泣くことも笑うことも辛いと吐き出すことさえ赦されていた。
それが側に居れないサイティアを救い、どれだけティアの支えになっていたか―――彼の送り火の日。水葬される前司祭の亡骸を乗せた船が、焼けて沈むまで、頭を下げて見送った。
「ティアは1を10にも100にも受け止める…根が真面目で冗談が通じないことも多い」
「最初は少し面倒だと思ったこともある………かな」
生きているのが辛いと、一度だけ洩らしたことがある。吐き棄てられた台詞に、ティアは強い反応を示した。
「目の前で震えるから、どうしたのかって思ったら………空から大粒の雨が落ちてきて、イルカの大群に囲まれて驚いた」
あれは出会って一週間足らずの時だったと、ユウリヤが呟くのを黙って聞くサイティアは空を見上げた。
同じように空を眺める。いつの間にか雫を落とそうとしていた空は晴れ初め、雲が流れていくのが見えた。
「感情が揺れると天気を揺るがせる………それであいつは神殿に入ってからは、感情を極力殺すようになってしまった」
とても真っ直ぐで、無邪気だった少女が最初に覚えたのは『感情の殺し方』。泣くことを赦されず、笑うことを赦されず、神官達の眼差しの檻で過ごした日々。それは無邪気さを奪い表情を奪い。引き取ったのが前司祭でなければ、きっと今のティアすら、この世に存命はしていなかったのではないかと思う。
あの牢獄のよう場所で唯一、ティアを守っていた前司祭。彼の前だけは、泣くことも笑うことも辛いと吐き出すことさえ赦されていた。
それが側に居れないサイティアを救い、どれだけティアの支えになっていたか―――彼の送り火の日。水葬される前司祭の亡骸を乗せた船が、焼けて沈むまで、頭を下げて見送った。