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硝子の挿話

第10章 交錯

「誓いましたもの…」
 四年前の星祭の夜、あの日までティアは飾りだけの価値しかない神子だった。
 そうじゃないと教えてくれた毅い眼差しの太陽宮の姫神子。
 彼女は神子としての才は、一切なかったが、先代に名指しされたという経歴を持つ。それは為政者としての異彩を認められた証。日照時間が短い北の大地に水耀宮と同じだけの光を与え、熱を与えた。
 北の厳しさを、そのまま体現させた美しさを持つサミア。そして三宮の中で一番貧富の差が激しい月空宮の唯一の月男神子(つきなだみこ)であるユア。
 彼はとても繊細で、癒す間もなく傷を受けて耐えている。挫けても躊躇っても、前を望む姿勢は敬愛している。
 そして発端は、月男神子であるユアに付き従う騎士が言った一言だった。

『今の世界に終末をもたらせたい』

 自らを偽っても、この世界を変えたいのだと叫んだ少年。月を魅了する太陽の輝きを放っていた。

「ハクレイ様が一番大変ですもの、私が泣き言は言えません…っ」

 ハクレイは全ての神子間を繋いでくれる。彼は彼で動いているらしいが、その細かいことは教えてくれない。
 けれど今はそれでいいと思う。ティアが現在しなければならないのは、詮索ではないからだ。
 切実な痛みを全身で受け止めて、それでも尚輝く魂たち。その全てを愛しいと感じているなら、住まうこの世界が怒りを向ける前に変えなければならない。
「ヒトの上にヒトを作るから、争いは無くならないのかも知れません…」

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