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硝子の挿話

第10章 交錯

「うーん…私って頭悪いですからねぇ」

 それで諦めてはならない。ティアに出来ない事でも、人が集えば知恵を出し合える。
「次の星祭祭りまでに、少しでも結果を手元に残さなきゃ…」
 模索して探るしか術はない。
 ティアは限られた場所で、限られた行いしか出来ない。
 足元に転がる小石をひとつづつずらしていけば、目の前に道は広がる。そう信じていいのだろうか―――不安という暗幕が、常に側で下りるのを待っているみたいで、正直に言えば怖い。
 対立が無くなれば、軍に割く金額が浮く。

「それが一番いいと思うのですが…」

 争いは何も生み出さない。ティアがそう思っても、賛同する相手は少ない。その事実もまた胸に重く、国という単位で考えると必要なのも否めない。
 複雑な感情がティアに溜息をつかせる。後ろに手をついて空を見上げると、星が既に煌き夜が訪れていた。
「戻っても私は混ぜて頂けないし………今日はこのまま夜を過ごしましょうか」
 昔みたいに、楽しいことだけを考えて。空の美しさを夢に見て、寄せる海の漣を子守唄に。
 小さな頃に戻るように。

 ―――叶わない夢を、胸に秘めて。

「人は何処まで進むのでしょう…」
 膝を抱えて呟く。欲が満ちることは無いのだろうか。
 ティアにしても野望もあれば、希望も膨らむ胸にある。今日の平和を願うだけでは、明日には殺されているかも知れない吾身に苦笑した。
「思えば此処が一番、私にとって安全な場所なのかも知れません」
 矛盾していく思考と、甘く胸に広がる願い。その落差はとても大きくひとつの形を留めてはくれない。
「そういうものなのかも知れません」
 正しいことも、そうじゃないことも今出せる結末ではない。先へと続いていく歴史が、それを評価するのだ。
 改めて自分は、とてつもなく大きな改革に首を突っ込んでいるのだと自覚する。





 それでも一人でも多くの人々に『選べる』未来を提供したい。
 学校さえ不十分で、文字を読めない者も数すら勘定できない者もいる。
「身近なとこから改革を進めなきゃダメなのに…」
 味方が極端に少ない。その事実はとても大きな壁だった。
 不安は陽炎が萌えたつ大地から昇るように、大気を歪めながら側で揺れている。そう認識する度に怖くて、怯えてしまう本心が竦んでいた。

「私はなんて弱いのだろう…」

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