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硝子の挿話

第10章 交錯

 ユラとは月空宮の月男神子の妹で、まだ数えで10になったばかりの少女だ。兄であるユアから、最初に相談を持ち出されたのが前回の星祭だった。
 それからずっと相談に乗っている。
「発露…」
 そう言って黙り込む。握った拳を顎元に寄せ、思案しているらしい。
 ハクレイは表情を引き締めたまま、黙ってティアの前に控えていた。
「ハクレイ様も発露はご存知なのですか?…」
「幾度か確認しております。恐らくは、兄であり現月男神子のユアよりも」
 切実に響く声が震えている。
 他の二つの神殿よりも残酷な扱いを、月空宮の神子や巫は受けていた。

「メイスが知るのも時間の問題だと思われます」

「とても澱んだ闇に身も心も預けてしまった人…」
 頷いたハクレイを見ずに、闇に溶け込んだ海をティアは見た。
 一度だけ、月空宮司祭主であるメイスと会ったことがあった。
 背が高く中肉の、限界に研ぎ澄ませた刀身の眼差しに、読み取れたのは、『絶望』の一言だけだ。悲しみを通り過ぎた憎悪を常に胸に抱いている―――そんな印象が、彼にあったのを思い出す。
「ユラちゃんはどの程度の能力を見せますか?」
 悲痛な横顔を向けて黙り込んだハクレイ。彼自身も深く抉り込んだ闇を持っていた。


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