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硝子の挿話

第10章 交錯

 触れなくても分かる。あの切実な叫びを耳にした瞬間―――強烈な負が胸に刺さった。
 ちょうど話が途切れた時で、ユアと太陽宮の姫神子であるサミアが席を外したときだった。
 呟くような小ささだったが、言葉は、今もティアの心に残っていた。

『あいつだけは人生をかけて失脚させてやる』

 普段見せる明るさはなく、暗い眼差しで彼は断言したのだ。
 その裏にはティアには想像も出来ないほどの現状があって、覚悟もないのに聞かせてほしいとも力になりたいとも言えなかった。
「どの程度と言いますと?」
「元々、私の場合は感情の揺れで発動し、天候を変える…幼い時分であれば稀にある能力に過ぎません」
 大人になれば消え失せる可能性も十分にある。実際、ティアの母親もそうだったと聞いたことがあった。
 父と出会い、恋を知った日に失ったのだと、だから特別ではないと教えてくれていた。
 ただティアは恋を知っても、能力は今だ消えずに居るのだが。………
「そうですね。今までユアが知らせたこととは違うことなら、自らの姿を蜃気楼に投影すること…でしょうか」
 ユラは二十歳まで生きることはないと、医師に断言されたことがある。病と死を背中合わせに抱いていることも一因にあるかも知れないと付け足した。
「起きている状態で、ですか?」
「ええ。ユラは『影あそび』と言ってますが、内容は『伝言』もしくは『意思伝播』です」
「水晶を通さずの伝播…」
「はい」
 やっぱり考えているのだろう。顎に拳を当てたまま、上を見て下を見て、思考しているのがハクレイにも分かった。

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