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硝子の挿話

第2章 刹那

「遊びにいこ」

 瞼を擦りながら、壁時計を見ると既に正午を幾らか過ぎてしまっている。まばたきしながら再度千遼を見た。
「……起きたのですね」
 どちらかと言うと―――この科白はリビングで、二度寝をしてしまった千尋に使うべき言葉であった。
「今から俺と一緒に出かけねぇか?」
 夏休み何度も聞いている台詞だが、不思議そうに千遼の瞳を見つめる。大概にして男子と行動を共にすることが多い千遼にしては、極端に珍しい誘い方だった。

 いつもなら、「誰々と、どこそこに行くから来るか?」―――そう誘いかけてくる。

 その違いにキョトンとした目を向けたとしても罪は無いだろう。表情は本人が思うほどは乏しい訳ではない。返事を待つ千遼は頭を掻いて手持ち無沙汰を補っていた。
「…珍しいのです。今日は夏休み最後の日ですのに、ハルちゃんはデートに行かれないのですか?」
 そのまっすぐな問掛けに、千遼はほんの少しだけ、苦笑混じりに笑う。
「夏休み最後の日ぐらいは、ひーと遊びたいから断ったんだ」
 姉妹相手に照れていても仕方ないのだが。千遼は自覚ある天性の天邪鬼体質で、素直に言葉を吐くのは苦手だ。それは理解しているから、千尋は笑顔で答えを返した。





「今日はお天気がいいのです。遊びに行きましょう」
 一人より二人の方が、洋服をみても雑貨を見ても楽しい。服の趣味はまったく逆と言ってもいいほどなので、見る場所は多いだろう。

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