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硝子の挿話

第11章 予感

 それを考えると怖いと思ってしまう。臆病で矮小な胸の内が切ない。
 もっと大らかに考えたり、夢を語ればいいのにと、自分でも思うのに―――。

「私はどうしてこんなに弱いのでしょう…」

 両手をぼんやりと見て呟く。
 頑張ろうと思う次の瞬間に、自分の言葉をぼやかせてしまう。本当なら、もっともっと努力を重ねなければ、追いつくことさえ出来ない。

『ティアはのんびりした子ですから、のんびりと一歩ずつ進めばいいんですよ』

 ふっと過ぎるのは、前司祭が繰り返し繰り返し聞かせてくれていた言葉。ゆっくりと掌を握り締めると、何度も頷いては胸に響かせる。希望や願いは余りにも強い形で描いているせいか、落差に落ち込んでしまうのかも知れない。
 千里の道も一歩から始まる。
 もう既に一歩は踏み出してしまっているのだ。
「頑張ります…」
 心音が痛いほど鳴り響いている。押さえようとして、強い音を掌から聞こえた。








 暗い闇だけが広がると思っていた場所に、小さな明かりを揺らして歩いてくる影。
 影は此処の由来が分かっていたが、よもやこんな時間に出会える相手ではないと思っていた。
 空から注がれる月光に映える長い髪が解れ、風に遊ばれていた。
「ティア…?」
 手に持つ小さな灯りをかざし、存在を確認したのは―――。

「ユウリヤ…?」

 振り返る驚いた声が、感情を揺さぶる。とっさにティアは海の中へ、逃れようと水を蹴って走り出した。
「ティア!?」
 ユウリヤが灯りを握り締め、海水に走り出した後を追う。必死に逃げようとするティアの腕を捕まえ、力任せに引き寄せた。
「きゃ…っ」
 重力に逆らえず、ティアの身体はユウリヤの両腕の中に収まる。明かりは横になり、海水によって消されていた。
 けれどこれだけ近くあれば、その存在がはっきりと見える。捕らえたユウリヤの腕は強くて、ティアは無意識に肢体を震わせる。風に流れる香りは、ティアによく似合う花の甘さ。運ばれて胸に愛しさを招く。

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