無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　握っていた腕の強さを緩めた。
　このまま抱いていたら、折れてしまいそうで、それが怖く感じると、無意識に入れていた拘束を外した。

「何故、…俺から逃げる？」

　反らすことを許さない。毅い瞳がティアの心を射った。
「………」
　黙秘権を主張して黙り込むティア。手を震える肩に移動させ、軽く揺さぶると、反らされていた瞳がユウリヤを見た。
　ティアの迷いが、無意識に足の行方をかえていたのだ。そんなことを言えず、黙り込んだティアを間近から見下ろす。
「どうして逃げるんだよ…」






　心は。


　心だけはまっすぐに、ユウリヤの元にいけるのだけど。…芯が粟立っていて、話すべき言葉が上手く唇に伝わらない。
　戦慄いたまま、何かを出そうとして閉ざされる唇。

「ごめんなさい……」

　それしか言えない罪悪感が重い。謝罪の言葉だけを幾度も繰り返す。その度にユウリヤの溜息が聞こえた。
「俺が嫌なのか？」
　投げられた言葉にティアは硬直する。そんなつもりで言った訳でないのに、そんな受け止められ方をするなんて思わなかった。
　反らすことの出来ない。
　強さを持つ言葉に、ティアの瞳は引力で引き上げられた。
　自分が恥ずかしかった。
　恥かしさで、涙がいっぱいになる。想いの枷が外れそうで、ティアは唇を噛み締めた。
　ばらせるなら、全てを白日の下にさらし、懺悔でもなんでも出来た。
　愛した男だから、そんなことは死んでも言えない。
　どれほどけ挫かれても、恐怖ですくんだとしても。
　彼といる時間が、確かにティアを癒している。だからこそ無くしたくないのは、ユウリヤ自身であり。身体の奥から溢れるようにある気持ち。
「…めんな…さい…」
　溢れているのは、涙を介した心だと言えたら、ここまで苦しむ必要も無くなるのだろうか。
　不器用なティアには分からない。

「俺のことは、好き？」