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硝子の挿話

第11章 予感

 身動きを止めたユウリヤが、大きく目を開き驚愕を示しているのは、ティアにも分かっていたけれど。

「愛して…くだ……さ…い」

 ゆっくりと伸ばす腕。
 反らさない瞳。
 壊れてしまいそうな、心。
 痛いほど鳴る、音。

 欲しい。―――目の前に立つユウリヤの姿を正面から捉えて笑う。答えを求めて伸ばされた腕の決意を、ユウリヤに委ねて泣きそうに見ていた。
 精一杯の気持ちを表したつもりで、もしかしたらこれは間違っているのかも知れない。
 ユウリヤに呆れられ、踵を返されるかも知れない恐怖。こんなに誰かを欲しいと思ったのは、生まれて初めてで、どうこの気持ちと付き合っていけばいいかも分からない。全てが模索と手探りの状態だ。
「意味を…分かっているのか?」
 水音を掻き分けてユウリヤが近づいてくる。心音は強くティアを責めていた。
 真っ赤になっているのが、近づいて初めて分かる。ティアは小さく頷いて待つ。
 ティアの大きな決意を秘めた瞳は、揺るがない寂しさが見えた。
 繋がれば、二人の間に横たわる隙間が消えて、もっと理解出来る気がする。
 存在を感じたい。
 貴方を刻みたい。



 ―――もっと側に来て欲しい。



 そう願う瞳の哀に、ユウリヤの心が揺れる。それは高波を被るような衝撃だったとしても過言ではない。
「……」
 煌々と輝く月灯りの下。
 ユウリヤに伸ばされた両手を掴んで、強引に引き寄せて抱きしめた。
 神子に向ける慕情は、慕い愛することで、こんな熱を伴う気持ちは背徳だ。それでも二人はあの日出会ってしまった。
 背徳の香は甘く、身体を満たす毒の魅惑を含んでいる。目の前が大きく揺れた。





 踏み出した足は、無意識に近い程の衝動行為。抱きしめた身体は海水で冷え、小動物のように震えていた。
 両腕にある重みは、ともすれば羽のように風に流される弱さと、大地に根付く花のようでもあった。
 毎日は変化無く、同じに過ぎていくようで、まったく違う日を送る。それが脈々と続いていく日常の本当の姿。
 変化を望もうと望まざると、過ぎていく過程とは何かが違うのだ。

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