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硝子の挿話

第11章 予感

 遠い日に、家族の元を離れ旅に出た。
 家族にも等しい仲間を見つけて、此処が自分の居場所だと思ったのに、全てを焼き尽くす劫火に失ったと嘆いていた日々。
 それでも他人を求める。出会い惹かれ恋人と積み上げた日々を失い。逃げるために訪れた此処で、今また諦めていた筈の恋情に火が灯された。

「俺もティアが………」

 続く言葉はティアの中に溶け込んだ。胸に熱く滾る感情へと流されるがまま、―――深く、己という存在を、互いに刻んで確認するように接吻を重ねた。
 恋人になって初めて重ねたキスも、この海だった。
 あの時よりもずっと、高鳴る胸の鼓動。そして激情の波に浮き沈みを繰り返す。
 海水を含んだキスは、思っていたよりも塩分の刺激が舌を刺さない。

 愛しさを、握りこんだ。

 お互いの掌からなる温かさは愛しく。
 命の温もりがあった。
 閉じた瞳。
 僅かに見えた長い睫が、濡れている。ユウリヤは意識が、霞むような錯覚を覚えていた。
「………」
 それは数瞬の出来事だが、満たされ潤う気持ちは、果てしなく長く時間を感じさせる。互いの熱を、熱で感知しては離れた。
 手を繋いで二人は砂の上、影をひとつに重なる。雲が阻む月明かりは薄く、長く。
 太陽を求め、月は追うことを止めない。
「…後悔は聞かない」
「後悔すると思いますか?」

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