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硝子の挿話

第11章 予感

 怖気ついた訳ではないが、神聖な能力を傷つけないかと聞くユウリヤ。
 一瞬だけ意味を理解出来ずに、ティアはきょとんとした。
「…私の力は原始の力です。鳥が習わなくても道を知るように、獣が教わった訳でもないのに危険を察知するように。雨が来るのを教える蛙………元々は、人という種族にも与えられていた能力に過ぎないのです」
 頬に伸ばされた手に両手を添えて、ティアは甘えるみたいに擦り寄った。
「無くなるというのなら、私の能力はとっくの昔に消えている筈なのですから………」
 雲が勢いよく月から二人を隠す。ティアはユウリヤの掌に唇を寄せて軽く触れた。
 恋を知った時に失った母とは違い、今もティアは自然が吐き出す言葉を心で聞いている。せせらぎは遠く近く。
「ティア」
 もしも愛し合うことで、能力を亡くすのなら。その時は、誰の反対も聞かずに攫おう。同じ大地に生まれてきて、出会わない筈の二人は出会い恋に堕ちた。





 その意味は偶然ではなく、必然だったのだと、大切にしていいのではないか。

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